自然、ままならず

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猛暑が続いている。
モウロウとする意識のなか、アトリエで制作していた。
たまに友人のお父さんからもらった哲学書を読み拾っては、また制作に戻り、時に歌ったり、時にとび跳ねたりして、エネルギーの余剰を自然の中にぶちまけている。

畑のどまんなかで一人制作に向きあう事には何か、言いようのない喜びがある。
Tシャツの下からムラムラと立ちのぼる、蒸気のようなリアリティ。
立ち込める草いきれ、燃えるようなアカネ雲、台風後の床上浸水。
これら自然現象の、ウムをいわさぬ説得力たるや!
額から流れる汗は、脳内に巣食ったロンリーな論理を、洗い流してくれるかのようだ。
しかし、こうやって自然と一体になろうというその時、決まって邪魔するものがある。
この数ヶ月悩まされ続けている、日光アレルギーによる湿疹だ。
日焼け止めクリームなど、気休めにもならない。

日光浴。
植物から哺乳類にいたるまで、地球上の生命にとってあたりまえの自然活動である。
自分はそれを心から欲しているが、この身体は全力でもって拒否する。
これは一体どういう事なんだろう?
「過剰な免疫反応」というソレっぽい知識には、なんら実感がわかない。

自然を前にして心と体が逆の反応を示すとき、私はどちらに従えばいいのだろう?

という「私」がまさに心の事だからと、素直に日光を浴びてみる。
すると夜中に湿疹が出て、強烈な痒さに身もだえる。
「てめえは外に出るな!」と太陽にはね返されたような感じだ。
喘息のときは「てめえは息するな!」と空気にはね返されるのだが。

ならばと今度は身体に従って、日光を避けるよう努める。
降りそそぐ陽光の下、気持ちよさそうに戯れる人たちに、日陰から羨望のまなざしを送る。
体のためだと自分に言い聞かせつつ、段々と心が腐ってくるのがわかる。
観念がよじれて、トグロを巻きはじめる。

毎年おちいる、このパラドックス。
心の言う通りにならない体。
体の要求に応じない心。
どこかでムリが生じているのかも知れない。
こういう時は、ひたすら眠る事にしている。

私は幼い頃からよく眠る子供だった。
母いわく、ゴツゴツした岩場だろうと、ポニーに乗馬中の時であろうと、一瞬の時間の空白を狙っては、ぐうぐうと眠っていたそうだ。
たっぷり睡眠をとった後は、すこぶる体調が良い。
全身まっ赤に出ていた湿疹も、ウソのように引いていたりする。

ぼんやりと眠りから覚め、なんとなく思索にふけり、また眠りにつく生活。
これが一番体質に合っているという事が、いままでの喘息、日光アレルギー、アトピー性皮膚炎との格闘の記憶から推察される。
もちろん、そんな生活はありえないけども…

アレルギー体質の自然な生き方とは一体、どういう状態をさすのだろう?
不自然な生き方を強要されているような、こんな現代においてである。

一律の人間が良しとされる今の風潮が、なんだか息苦しい。
誰に対しても要領よく立ち回り、スポーツに政治にバランスよく関心を持ち、どんなジャンルにも一家言ある良識人。
そんな風には到底なれそうもなく、自分なりのスタンスを模索していくしかない。

しかし、反省のない実利主義、定型文の応酬、「しょせん、結局、どうせ…」のニヒルなあきらめ笑い。批判しあう者同士が、はたから見ると酷似しているという皮肉。
そんな世間にあっては、テレビやネットから借用してきた見解そのままに語り合い、何らかを確認した気になって、有用なことを話したような話さないような、ウンまあこんなもんだと腹をくくって布団にもぐるしかない。

こういう時、無性に「変人」が恋しくなる。
ナゾの確信でもって突き進み、独自の思想体系を築きあげてしまう変人。
とことん自分の心と言葉で考える変人。
もしくは、野放図、でたらめ、破天荒、破れかぶれ、風狂の人。
そんな人間らしい人間が、だいすきだ。
自分にそこまでの度量がないからこそ憧れてしまう。

これもやはり、自然を欲している証拠だな、と思う。
自然とは「野放図、でたらめ」そのものだからだ。

アトリエからの帰り道、駅の階段にカブトムシがころがっていた。
息子のおみやげにしようと思い、家まで連れて帰った。
人間にはそこまで興味がない息子だが、生き物にはとてもやさしい。
犬もネコもミミズもバッタもダンゴムシもみんな平等に、手の中で愛する。
カブトムシを手渡すと、ひとしきり観察して満足したのか、
「にがしにいく」という。
なのでカブトムシとグレープフルーツのかけらを持って、近所の大木まで逃がしに行った。
by kan328328 | 2016-08-24 01:40 | 日常

美術作家・三宅感のブログです


by kan miyake
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