うたかた

うたかた_d0108041_17362621.jpeg
〈高崎のマンションに飾られている私のレリーフ作品〉


この4年間ほど、
ノンストップで制作し続けてきて、
発泡スチロールのゴミが15袋近く出た。
なので軽自動車にギュウギュウ押し込み、
ゴミ処理場まで持って行った。

契約書を交わす際、
受付のお姉さんに何のゴミかと聞かれ、
「美術制作で出た発泡です」と答えると、
「ああ〜…」と、渋い反応。

「とりあえずゴミを見せて」というので、
車まで一緒に行き発泡の山を見せた所、
またしても「ああ〜…」の反応。

「発泡は少しでも色が付いてると、
再利用できないし処分も高くなるのよ。
汚れた部分をぜんぶ削ってくれば、
だいぶ安くなるけど、どうする?」

とのことだった。俺は半泣きで、
発泡をアトリエに持ち帰った。

うたかた_d0108041_17393829.jpeg

うだるような猛暑の中、
発泡の汚れを一つ一つ削り落とす。
削っても、削っても、削っても!
一向に終わる気配がない。

汗でベタつく体にはまんべんなく、
発泡の白い粉がコーティングされ、俺は、
絶望したミスタードーナツみたいな顔で、
発泡を削って、削って、削りまくる。

アトリエの周囲には夏草が生い茂り、
いたる所にクモの巣が張っているため、
この発泡の処理が終わっても今度は、
大掃除と草むしりもしないと。

ああ。
今年の夏はきっとゴミ処理と、
大掃除とコロナ不安だけで終わるぞ。

夏が。

俺の大好きな夏が。

この地味作業の延長線上にふたたび、
スポットライトを浴びる日は来るのだろうか。
いつかどこかの美術館で「三宅感個展」
が開かれる日は来るのだろうか。

うたかた_d0108041_17481070.jpeg

ところで昨夜は疲労困憊していたせいか、
妙に頭が冴えわたり、睡眠中に覚醒した。

気づくと目の前にホワーっと、
生成り色の空間が広がっている。
自分もそこに存在してるけど、同時に、
空間とも一体になってしまったような、
ふしぎなフィット感。

そして地面から、プクッ、プクッ、

と、
小さな泡みたいな物が浮かび上がり、
その発生と連動するかのように、

「あ、今、誇らしい気持ち」

「あ、今、自分に酔う気持ち」

「あ、今、
昔の友人とのイザコザを思い出し、
少しだけ後悔する気持ち」

「あ、今、
芸能人の不倫ネタを検索したいという、
下世話な気持ち」などと、

俺の心に様々な感情が芽生えては、
泡と共にプツンとはじけて消えていく。

どうやら、
自分の感情が生まれてくる現場に、
偶然立ち会っているらしい。
俺はやむなく、感情の泡一つ一つに、

「ウンウン、そっかそっか」

と、うなずきつつ対応していたら、
次第に泡の数も減っていき、
最後はおだやかな空間だけになった。

何も浮かんでこない、静かな心は、
ただひたすらしあわせであった。

そして、俺はこの「感情」という、
秒単位で変化するセツナ的な現象に、
37年もふり回されてきたことを思い、
自分のバカさ加減にクラクラした。

by kan328328 | 2020-07-20 17:48 | 日常

美術作家・三宅感のブログです


by kan miyake
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31