先生

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息子が生まれました。
哺乳瓶でミルクをあげてみました。
グビグビと元気よく飲むので、ついつい嬉しくなりました。
奥さんもぼくも、とても元気です。
これから父親として、息子に伝えてあげられる事はあるのでしょうか?

自分にとっての「先生」について考えてみます。

初めて「五感」を使う事を教えてくれたのはビクトルエリセ。
じっくりと息を止めて、絵画を見るたいせつさを教えてくれたのは坂崎乙郎。
窓のカーテンからもれる淡い光の下、テーブルにとん、とんと配置された静物。その点と点をつないで延長していくと、果ては宇宙までたどりつくことを教えてくれたのは、セザンヌ、モランディ、小津安二郎、ペドロコスタ、タルコフスキー。
男女が正面から裸で向き合うというのは、こんなにも命がけで神聖なものなのかと実感させてくれた島尾敏雄、山田太一、ベルイマン、エゴンシーレ。
単純さ、かわいさの後ろにはいつも大きな怖さがあるんだよと教えてくれたのはクレー、長新太、ブライアンウィルソン。
遠い遠い記憶をさかのぼって、現実がうつろになっていく「めまい」を覚えていてくれたのは百閒、泉鏡花、折口信夫、つげ義春、残雪、キリコ、マヤデレン、リンチ、ダニエルシュミット、ガイマディン。
「春」という季節をほのかにあかるく、やさしく、切々と悲しく思わせてしまうのは中也、ハロルドバッドの感性。
もし世界感情がこんなにセクシーであるなら、これからもずっと生き続けていきたいなあ、とウットリさせてくれたクンデラ。
アブナい補色がピーンとはりつめた空間。そこでうごめく感情の軌跡を常に「ここではない」着地点におろす事を教えてくれたすばらしき先生、フランシスベーコン。
残酷表現を突き詰めると、人間への優しさがしんしんとにじみ出てくる事を教えてくれたのは、ブットゲライト、ハネケ、ブラッケージ、ハーモニーコリン、北野武。
「キラキラした虚飾こそリアル」という、価値観の一回転を強要されたのは、寺山修司、ケンラッセル、グリーナウェイ、ホドロフスキー、ピエール&ジル、マークアーモンド、クリムト。
その極端さによって、人間というものの無限の可能性を感じさせてくれたヘルツォーク、ディアマンダギャラス、シュヴァル。
戻って来れる保証のない、危険な逸脱旅行に連れ去ってくれたのはゾンネンシュターン、サド、バタイユ、澁澤龍彦。
上も下も左も右も、生も死も神も乞食もすべて、しっかりと抱きしめてみせたドストエフスキー。
白黒という色のない世界は、こんなにも色気があるのだと教えてくれたケムール人、ゴジラ、ノスフェラトゥ、カリガリ博士、ジャンヴィゴ、長谷川集平。
山菜のようにじんわりとした生活の滋味を教えてくれたのは、つげ義春、川崎長太郎、葛西善蔵、色川武大、正岡子規。
女であるというかなしみを知っていたのはオーレンカ、アロイーズ、島尾ミホ、鈴木いづみ、フリーダカーロ、モーダーゾーンベッカー。
妻に対する夫の視線を、理想的な光源で教えてくれたボナール。
キャンバスにおぼろな色彩を散りばめながら神様になってしまったルドン。
自分の人生までキャンバスに塗りこめてしまったゴッホ。
人間が立っている、それだけで十分に宇宙なのだと言葉少なに語った大野一雄、ジャコメッティ、ツァイミンリャン、種田山頭火。
オマルハイヤームは天体観測のしすぎで、コヘレトは知恵を極めすぎて「この世はむなしい」とつぶやいたけれど、それに反発する事を教えてくれたのはニーチェ。そのまま愛する事を教えてくれたのはチェーホフ。
予定調和のキャッチボールを繰り返す日常をそれて、うっかり「ここではない」世界に足を踏み入れてしまったのはベケット、松本人志、スコットウォーカー、ヘンリースレッギル。
ヘリクツはわかったからとりあえず脳みその限界超えて、「前向き」に行動しろや!行動しろや!とのしのし闊歩する関口君、ゲーテ。
そこからいつも過去と未来へとつながっていけるような、荒川の土手。

この全員がある日、俺の家に遊びに来ることを想像する。
俺はまず風呂をすすめるだろう。そしてひとりひとり、ていねいに背中を流す。
「あなたはずいぶん生き急いだ人生でしたよね…」などと、回想を交えながら話をするのだ。
夕食の時間になったら手作りのカレーをご馳走する。そして帰り際にかんたんな手みやげを手渡して、誰に聞かれるわけでもなくこう答える。
「大丈夫大丈夫。ぼくはいま、ものすごい芸術作品を作っていますから!」
これは事実である。
by kan328328 | 2013-06-13 05:57 | アート

美術作家・三宅感のブログです


by kan miyake
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