岡本太郎現代芸術賞に入選しました

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岡本太郎現代芸術賞に入選しました。
とてもうれしいです。これから選考に入るので忙しくなります。
制作期間中は、息子と遊ぶ時間も、友達と語らう時間もほぼありませんでした。
日中はただただ働き、仕事が終わるとアトリエに向かい、夜な夜な制作して、深夜に帰宅するとすぐに眠りこけてしまう。そんな生活でした。
ときおり強烈なむなしさに襲われました。
作品に対して、もっとも手厳しい批評をしてくるのは、いつも自分自身でした。
どんな批評家より辛辣で、揚げ足を取るようなコメントばかりいただきました。
制作中はそんな調子で、なかなか気分転換をはかる機会もなく、せめてもの慰みにとアパートの庭に野菜やハーブを植えたこともありました。
ナス、トマト、ピーマン、キュウリ、ミョウガ、ローズマリー、レモンバーベナ、マジョラム、ユーカリ…。
これがけっこう面白くて、子どもの頃とはまた違った、しずかな充実感に満たされました。
たくましい幹の先にぶらさがる、まっ赤なトマトの実に見入ってしまい、気づくとかなりの時間が過ぎていて、
「このまま野生に還りたい…」と感じたこともありました。

ひとりでいる時間が長いと、いつのまにか頭の中は観念でいっぱいになります。
意味、意味、意味の自問自答が止まらなくなるのです。
「生きる意味は…?」
「表現する意味は…?」
「世代論で語ることの意味は…?」
「アートの文脈に乗らない作品をわざわざ作る意味は…?」
意味のリレーに疲れきった頃、だいたい尿意をもよおします。借りているアトリエにトイレは無いので、近くのコンビニまで行きます。
ドアを押し開け、中に入り、ふと鏡に映る自分の顔をみて、あまりの生々しさにギョッとすることが あります。変な話ですが、自分が動物であることに、改めて気づかされる感じです。
さっきまで自分は、頭の中で精いっぱい論理の大海を渡っているつもりだったのに、ちょっと鏡をのぞいてみれば、そこに映る顔にはあいかわらずウブ毛が生えていて、鼻には脂汗が浮いていて、部分的に陽に焼けていて、ホクロがあちこちに点在していて、前髪は徐々に後退し始めていて、目元には小ジワが走っている。このなんともやるせない肉体が、しっかりとそこに存在しているのです。そしてどうやら着々と年を取っているようです。
「おまえのカッコいい意識に私もついて行こう」なんて素振り、少しも見せてはくれません。
そこが、その肉体のふてぶてしさこそが安心感なのだと、後々になってようやくわかりました。
「いつだってここからスタートすればいいのだ。」と思えてくるのです。

今年の5月の終わり頃だったか、稲妻のように激しい幸福感を得たこともありました。
いつものように汗だくになりながら制作を終え、折りたたみイスに寝そべっていました。
梅雨入り前の空は青く澄みわたり、とても気持ちのいい風が吹いていました。
聴こえてくる音といえば、遠くで畑を耕すトラクターの駆動音と、鳥のさえずりだけ。
ふいに、胸の辺りでしびれるような感覚がわき起こりました。
汗とホコリと粘土と絵の具と発泡スチロールにまみれているこの体が、とてもリッチで濃厚なものに思えたのです。
そして「ああ、幸せだー」と体のすみずみにまで、うれしいような懐かしいような、ふしぎな感動が広がりました。

芸術とはなんだろう?とよく考えます。
芸術表現を使って自身の正義感やイデオロギーを表明することに、どうしてもなじめない自分がいます。
その原因の一つに、自分が社会に対してまだまだ無知だということがあります。そして怖い。
不安定な社会情勢も、大規模な災害も、ひとたびアーティストの手にかかると「わが胸に秘めたる《シリアス》に、ようやく見合うテーマを見つけたぞ!」と、喜んで飛びつくかのようで、それも何だか嘘くさい。
そして何よりもまず「自分が生きていること」そのものが、いまだに不思議で、不安で、でも無性に嬉しくて嬉しくてたまらないのです。
自分という前提を信じて疑うことなく、世界に広く目を向けられる人は、僕から見るととてもうらやましく、悔しくなる時もあります。
こっちは心身共にままならず、グラグラと不安定な足場をなんとか固めようと必死だから尚更です。ソツなくこなす社会人をなんとか真似ようとする、うまくいかずにアセる、余計に歩調がずれる、その段階をずっと足踏みしているかのようです。
なので、せめて芸術にだけは、生命倫理にも、道徳にも、ナニワブシ的家族愛にも、政治思想にも足をからみ取られることなく、はるか彼方まで飛んでいってほしいと、いつも思うのです。

今回の作品は自分の立脚点として、きわめて個人的な、やわらかいテーマからスタートしました。「わたしの人生」です。
あたりまえの日常から、どこまで飛躍できるか挑戦したかったのです。
自分にとっては、リアリティーを感じる物に仕上がったと思います。
この作品で大賞をもらいます。自信があります。
by kan328328 | 2015-11-20 00:42 | アート

美術作家・三宅感のブログです


by kan miyake
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