かけがえのない日々よ

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設営が一段落ついたとき、ふいに奥さんに聞かれました。
「わとくんが大きくなったら、自分と同じように表現者の道を選んでほしいと思う?」

表現者。
表現者…、表現者かあ。
表現者というのは、いつだって夢を追いかけています。
「でかい夢を持て!」
「夢に向かって走る姿は美しい」
一聴すると、とても響きのいいキャッチコピー。
目的、向上心、ハングリー精神…、言い回しは色々ありますが。
でもこういう言葉は、現状の自分に不満を持つからこそ、成り立っている部分があります。
「こんな暮らし抜け出して自由に生きたい」
「有名になって見返してやりたい」
「バカだから勉強して良い大学に入りたい」
「貧乏だからお金持ちになりたい」
といったように。
こういう、コンプレックスをバネにして生きるわとくんの姿を想像するのは…、ちと辛い。
夢を追いかける姿勢はもちろん、応援したいけど。

僕にとって、この数年の夢は岡本太郎賞入選でした。
応募締め切りまでの日数を逆算して、1年を細かく切ってスケジューリングしました。
それは、感性を切り刻むのと、どこか似ていました。
すべてを予定通り進めようとするあまり、日常の中のさりげない幸せに、どんどん気づかなくなっていきました。

太郎賞入選を思い描いて、毎日がうわのそら。
仕事中は、制作のできる休日を思って止まず。
電車の通勤中も、絵の具の組み合わせに思い悩み。
わとくんと触れ合っている時も、紙粘土の割れを思いわずらい。
就寝中の夢の中ですら、何十回と壁画を倒し、何百回と脚立から落ち、そして目覚めて…。
ようやく休日が来て、アトリエで制作を始めると、今度は、
「奥さんやお義母さんに育児を任せっきりにして、俺はアトリエで生命を讃える壁画を作っているのか…」と、なんとも行き場のない葛藤に襲われ、あわててアトリエを出る。
そして帰り着く頃にはもう、すやすやとわとくんは眠っている。
燦然と輝かんばかりに誕生したわとくんの、眠り姿しか見られない日々…。

これが、「夢を追いかける人」の姿なんです。
お世辞にも美しいとはいえない。
だからこそ、普段から意識してアンテナを張っておく必要があるのです。
なにげない日常の中にこそ、幸せはひそんでいます。

奥さんのしごとが長引いた日。
僕は保育園までわとくんをむかえに行きます。

ももぐみのドアをあけると、わとくんはキャーキャーわらいながら走ってきて、僕の足に抱きついてきます。

くらい道ばたでは、だれも気づかないくらい小さな、小さな木の実をみつけるわとくん。
それを手にのせて、まじまじと見つめているので、
「木の実だね」
とおしえると、うれしそうに笑って、ポケットにしまいました。

またある時、月のない夜空を見上げたわとくんは、
「お月さまいないねえ。ネンネしちゃったんだねえ。」
とつぶやきました。

うれしそうにネコを抱きしめたり。
おどけて、ハトの後を付いて回ったり。
雪の上に乗っかってジャンプしたり。
木の枝をふりまわしたり。

たったそれだけの仕草、まなざしの一つ一つに、僕はじーんとしてしまいます。
子供ってのは存在そのものが詩です。
中原中也と谷川俊太郎とヴェルレーヌとマラルメが100人束になっても、一人の子供にぜったいに敵わないでしょう。
わと君の小さく、けなげな姿は僕に、
「こういうかけがえのない瞬間をもう何千時間分、見過ごしてしまったのだろう…」
という後悔を起こさせます。

わとくんには、自分みたいに肩ひじ張りながら生きてほしくない、というのが本心です。
「親父もかわいそうだよな。そんなリキんだ生き方しかできなくてさ」
と、父親をバカにするくらいの余裕を持って、マイペースに生きてくれたらなあ、と思います。
「甘い!」って声がどこからか聞こえてきそうですが、しょうがない。自分の息子なんだから。

では、そのリキんだ父親は今後、どのようにして生きていくのかというと…。
これはもう、とことん突き進むしかないと思っています。
ボロボロになっても作品を作り続けますよ。

ある知人に、
「岡本太郎賞を狙うとか言ってるけど、そんなの子供がせんせいに褒められたくて、メダルを取り合うようなもんでしょう?」
と笑われた事があります。
くやしいですが、まったくその通りです。
自分にはまだ、子供の部分が残っています。
子供は、金色にかがやくメダルが欲しくて、欲しくて、たまらないのです。
センセイたちにだって、そりゃあ認めてほしいのです。
この壁画で何としてもグランプリを勝ち獲りたいのです。
岡本太郎賞に出品するために、今の自分にできる精いっぱいの勝負をしたんです!
文句あるか!
by kan328328 | 2016-01-30 21:24 | アート

美術作家・三宅感のブログです


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