ほだされて

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岡本太郎賞を受賞した途端、大勢の取材とフラッシュを浴びた。
いろんな人とワインを飲んで、散々知ったかぶって、うそぶいて、帰宅した。

翌朝から、いつも通りの作業所仕事がはじまった。
利用者さんとポリアンに水をやり、ラナンキュラスの手入れをして、弱った花の養生をした。
空にはじつに、おだやかな晴れ間が広がっていた。
昨夜のできごとは夢だったのだろうか?と思った。

家に帰ると、わとくんのヒステリーがひどかった。
蕎麦を手づかみで投げる。
木琴をスネに落としてくる。
「パパ抱っこ、クサい!」と言って顔を叩く。
ウルトラマン人形の上半身と下半身が「くっつかない!」と言って泣きわめく。
くっつけてあげると「取れない!」と言って泣きわめく。

このヒステリーの原因は…、あきらかだ。
俺が帰宅してからというものずっと、会場で知り合った方や友人、親戚などへの連絡に追われていたからだ。
少しでも承認欲求のエキスを吸いつくそうと(こんなチャンス今しかないとばかり)、Facebookの使い方を奥さんに聞きつつ、シェア、友達申請、いいね!関連記事探し、メッセージ、コメントなどに血眼になっていたからだろう。
Twitterのスマートな作法もわからぬまま、お気に入りとRTの使い分けもよく知らぬまま、ただ闇雲に関連記事をリツイートしまくる。

そんな父親の姿を、息子はずっと冷めた目で見ていた。
「キャラじゃないよ…」とでも言いたげな目で。
幼い息子の訴える目というのは、本当に力強い。
このまっすぐな視線にほだされて、今まで何度アトリエに行くのを躊躇したことか。

でも、やっとこさつかんだキッカケ…、わかってほしい。

つい昨日まで、畑のどまんなかのアトリエでこもって制作していた男が、会場に着いた途端におめでとう!を連呼されるということを。このダイナミズムに、もう少しだけ浸らせてほしい。あと5日か、せめてあと3日くらい…

男ってのは臆病だから、結婚すると、大体保守に回る。
子供が産まれると、更に守りに入る。
「角が取れて丸くなる」の所以だ。
すでに自分もこのかた、心境の変化に戸惑っている。
脳がそういうモードに切り替わるのだろうか?
いやいや、むしろ大切な家族ができたからこそ、それを表現に活かすアーティストがいっぱいいるはずだ。

映画監督のラースフォントリアーは、娘にプリンセスの絵本を読んで聞かせ、自分もつられて号泣したりして、それをヒントにダンサーインザダークを撮った。
デヴィッド・リンチは自分の赤ん坊の夜泣きに悩まされてイレイザーヘッドを撮った。
芥川龍之介「地獄変」の主人公の絵師は、実娘に火をつけて、その燃えさかる姿をモデルにして屏風絵を描いた…

ちょっと暗い例しか思いつかないが、しかし、
慣れ親しんだ生活に戻り、たまにこの一人語りブログをつづりつつ、また歩き出そう。

そういえばイタリアの静物画家ジョルジュ・モランディの展覧会が近々開かれる。
やっと!画集ではない本物に出会えるのだ。
今はそれが楽しみでなりません。
by kan328328 | 2016-02-05 08:28 | アート

美術作家・三宅感のブログです


by kan miyake
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