ハクモクレンとぼんやり
2016年 03月 20日

保育園に息子をむかえに行った。
手をつないで一緒に歩きたい俺は、自転車にはあまり乗らない。
息子は、園庭に咲いたハクモクレンを見ると、
「ケムシオバケ、コワい!パパダッコ!!」
と、しがみついてくる。
冬になると、銀色の毛におおわれた花芽をつけるハクモクレン。
それが息子には、なんだか得体のしれない生き物に見えるようだ。
息子をダッコして、すっかり日のくれた住宅街を帰りゆく。
通りを突きあたったところで、「地域センター」なる施設をみつけた。
うす闇の中、ぼんやりと青白いライトに照らされている受付。
その奥にひとり、青い服をきたおばさんが座っている。
ホッパーの絵画みたいだなあ、と思った。
心を惹かれた。
なんとなく、どこかに寄り道してから帰りたい気もあり、
息子に「入ってみる?」とたずねる。
だまってうなずくものの、表情がかたい息子。
多少、恐怖を感じているんだろう。
ガラスドアを押して中に入る。
しずかだ。物音ひとつしない。
ろう下の奥は電気も消え、まっくらだ。
と、受付のおばさんがすくりと立ちあがり、右手を伸ばして笑った。
口もとが何やらモゾモゾと動いて、
「ハイ、コンバンワー」とつぶやくのがわかった。
しん、とうす暗いロビーを見渡す。
ダッコが重かったので、とりあえずイスに座ろうと思った。
息子を下ろし、ふと横を向くと、たくさん人がいた。
「わ!」と思わず声が出てしまった。
心臓が止まるかと思った。
だるそうにソファーにうなだれている中学生3人。
輪になってヒソヒソ会議をしているママさんが4人。
みんな、ぴくりとも気配を見せないから、まったく気がつかなかった。
部屋のすみには、ピンク色のこども用すべり台が置いてある。
じーっと遊びたげな視線をおくる息子。
背中をポン、とうながしてあげると、恐る恐るすべり台に近づいていく。
一段一段、音をたてずに、そろそろと登っていく。
2歳児なりに部屋の空気を読んでいるのが、なんだか可笑しい。
それにしてもこの静まりようは何だろう?
真顔のまま、すべり台をシュルシュルとすべり落ちる息子。
スロープの最後が段差になっており、どちーんと尻から着地。
「へへっ!」と笑い、なぜか中学生たちの方にドヤ顔する息子、ガン無視される。
毒にでも当たったかのように、ぐったりしている中学生たち。どうした?
そんなことはおかまいなしに、穴からにょきっと顔を出す息子、
「イラッシャイマセ〜」と、接客のマネをはじめる。
俺は気づかないフリをして顔をそむけていたが、
「カンチャン、イラッシャイマセ〜」と名指しで呼ぶので、やむなくすべり台のまえに座る。
いつものお店やさんごっこである。
よし、ここは太っ腹なお客になってやろうと思い、
「えっと、じゃあビッグマックとチーズバーガーとポテトと…」
と言い終わらぬうちに、すべり台をすべって行ってしまう息子。
地域センター。
なんだかとても落ち着く場所だ。
時間が止まってしまったかのように、静かで、暗くて、無関心だ。
さっきまでいたママさんたちも、いつの間にかいなくなっていた。
思えばいつも、頭の中にこういうムードが漂っていたな。
心地よい暗さのなかで、ぼんやりしていたい。
自分がツイッターやSNSの速度に追いつけない理由が、なんとなくわかった気がした。
.
by kan328328
| 2016-03-20 18:34
| 日常