孤独のあり方

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生きづらさを感じながら日々を過ごしている人たち。
わざわざ名乗り出ないだけで、世の中にはゴマンといる。
俺のまわりにも、たくさんいる。

そういう人たちに目星をつけて、言葉巧みにすり寄ってくる人種も、たくさんいる。
スピリチュアル、ヒーリング、自己啓発セミナー、マルチ商法…
介護という職業柄、こういった人たちが多く出入りする。

「あなたの体に障害があるのは…」
「あなたの家族が不幸なのは…」
「あなたの心が満たされないのは…」

いわく、
信心のなさに原因があるという。
食品の選び方に原因があるという。
自己評価の低さに原因があるという。
そもそも孤独こそが諸悪の根源だという。

新規契約を取り付けたいだけの我欲から、人の弱みにつけ込んでくる人間。
孤独や悲しみを「悪いこと」「不健全な精神状態」とはなから決めつけ、病気のレッテルを貼る。そして、出てくる。出てくる。
どこぞの経典、冊子、健康食品カタログ、即効性を歌ったメンタルサプリ、何万円もするヒーリングCD、石、一緒に添えられるアヤシイ肩書きの名刺。

ただ、ただアヤシイ。
この数年、自分と近しい人たちが、こういった勧誘に度々あう。

生きているのがむなしい。孤独だ。
本当はそこに気づいてからが始まりではないのか。
なんでその場しのぎの「癒やし」で、孤独を洗い流そうとするのか。

今は芸術家ですら表現の動機を見失い、やたらと一人を恐れるような時代だ。
徒党を組んだり、いちいち識者にお伺いを立ててからでないと満足に絵も描けない。
そういう人たちにくらべれば、よっぽど切実に自分と向き合っていると思われる人たちが、ふいに、安っぽい癒やしになびいてしまう。
何だかとてもやるせない。

たとえば、落ち込む事があって仏教にすがろうとした時。
まず仏典に尋ねようとはせずに、どこかの新興宗教にスルッと入信してしまう。

「この精神不調はきっと、今までのジャンクな食生活から来るんだ」と思い至る。
そこで「自分で野菜を育ててみよう」とはならずに、やたら高い健康食品に走る。

「自分とは何か?」と思い悩むキッカケができたのに「ならば実存哲学を勉強してみよう」とはならずに、どこぞの自己啓発セミナーにさそわれて、頭の悪いコーチに暴言浴びせられて泣き喜ぶ。

「仕事に疲れたし、なんだか自然に触れたい」という心の声に気づいても、
「川にでも行ってみようかな」とはならずに、何万円もする川のせせらぎCDを買う。

ちょっと、安易過ぎやしないか。
真剣に悩んだ末の選択なんだろうか。
「生きるとは何だろう?」
という問いは、そんな応急処置では決して核心にはふれ得ない。
やさしい相談者風情の口車に乗せられて、フェイクの森をさまよい歩くハメになるまえに、しっかりと本物に出会うべきだ。

仏にすがりたいと思ったのなら、まずは原始仏教をひもといてみるといい。
中村元氏の書いた「ブッダのことば」がいい。
限りなく生身の、生きたブッダの言葉がとても平易に書かれてある。
そこから更にさかのぼって、バガヴァッド・ギーターとかインドの聖典も読んでみるといい。どちらも岩波文庫から出ている。

西洋哲学のなかに自己を探したいのなら、
手塚富雄氏が血を噴出させて訳したようなニーチェの「ツァラトゥストラ」を読むといい。
汗水だらだら流しつつハイデッガーの「存在と時間」と格闘してもいい。

自然のなかに答えを探したいのなら、
ヘンリー・ソローの「森の生活」を読むといい。
レイチェル・カーソンの「センス・オブ・ワンダー」もいい。

日々の労働の中から思索を深めたいのなら、
シモーヌ・ヴェイユの「工場日記」を読むといい。
エリック・ホッファーの「波止場日記」も最高だ。

孤独な人間の姿がどういうものか映像で知りたいのなら、
ツァイ・ミンリャンの映画「河」を観るといい。
恐ろしいくらい、そこにすべてが映し出されている。

何万円もする川のせせらぎCDを聴いて孤独をごまかすくらいなら、
スコット・ウォーカーのCDを聴いて、どんづまりの孤独と向き合ったほうがいい。

しかし、しかしだ。
このように、外側に注意が向いていること自体、自分がおろそかになっている証拠だ。
情熱を向けるべき自分が何だか心もとない時、人の興味はまず他者へ向かう。
目をキラッキラ輝かせて、水をえた魚のようにじつに伸び伸びと、じつに生き生きと、人や社会を批判する。
今の自分だ。
気がついて良かった。
いま向かうべきは、自分自身であった。
次の作品のアイデアと、誰に頼まれたわけでもない岡本太郎のレポート作成だ。

よし、がんばろう!!!
by kan328328 | 2016-07-03 12:21 | 日常

美術作家・三宅感のブログです


by kan miyake
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