鬼火のように

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三月ともなると、道ばたの野花たちも生き生きとしてくる。

貯水タンクのフェンス越しで、ずぶとく冬を越したノゲシ。
電柱から伸びたホトケノザはピンクの花を咲かせ、
縁石のすきまでは、タンポポの葉が円周をひろげている。


俺は、春だからといって何もない。
近くの自販機まで缶コーヒーを買いにいく。
あたたかいワンダモーニングショットをすすり、
近所をぷらりぷらりと散策するだけ。
とくに感動も、さみしさもない、商店街のような心もち。

春のひざしは、フィルムの粒子のようでやさしい。
この時期はたまらなく、土手を歩きたくなる。


南武線で南多摩駅下車。
是政橋を渡りきって、
どこまでもつづく土手をゆく。
河川敷までおりていって、
枯れ残った草の上にしゃがみたい。
赤さびた草の実をつまみたい。

川原でひろい集めたまるい石を、
持参した使い古しのハブラシで、
スベスベになるまで磨きあげたい。
石肌の、大まかな汚れにはビトイーンを。
細かな穴の汚れにはデンターシステマを。

100均のレジャーシートをひろげて寝そべり、
川面にきらきら映る光をいつまでも、ながめていたい。
青空と、生いしげる若草色の対比を楽しみたい。
ひとりっきりを、鼻の奥まで吸いこみたい。
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この気持ちは何だろう。
自然に帰りたいのか。
じゃっかん、猿人なのか。
蒸発願望とかではない。なぜなら、
この人生で、成しとげていない事は多い。

美の神殿のような作品をまだ作っていない。
フランスにシュヴァルの塔を見に行きたい。
恐山でイタコさんに口寄せしてほしい。
カラスミとアンチョビとミモレットをたらふく食べたい。
悪友に誘われて嫌々ヌーディストビーチに行きたい。
ルースターズの大江慎也にサインをもらいたい。
成長した息子に「親父はダサい」って言われたい。


枯淡の境地に入るには、まだ早すぎる。


なのに、わりと性急に、身がよじれるほど欲するこの感じ。
パノラマに広がる風情を、グイッとわしづかみにして、
ちぎってこねて、ねじ曲げて、心ゆくまで味わいたい。
ムリやり名づけるなら、わびさび欲。


俺はさみしいものが好きだ。
人であれ、物であれ、景色であれ。
美しいものは、どこかさみしい。


生活のすみずみにまで血がめぐるような恋。
そういうのはもう、忘れて久しい。
でも、日々生成される熱量は変わらないらしい。
妻子を得て、なかば使命を達成したパッションは、
新たに取り憑く対象をさがし、鬼火のごとくゆらめいて、

気づくと一日中ドンタコスむさぼり食ってたり、
何時間もイヤ〜ンなサイトを閲覧してたり、
家電製品爆買いを企てている自分に気づいたり、
ふと小保方さんの身を案じて手紙を書きたくなったり、
そうやってさんざん回路を血迷ったあげく、

最後は無事、作品制作へとなだれ込むのだ。

by kan328328 | 2017-03-11 15:47 | 日常

美術作家・三宅感のブログです


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