好きで好きでたまらない


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最近、家のとなりにフィットネスジムができた。


平日は毎晩23時まで開いているようで、
ドッカンドッカンとやたら騒がしい。


夜、息子を寝かしつけようとして布団に入る。
すると庭の外から、


「フォーーー!!!キーポン、太もも〜!!!」


という、ジムトレーナーの大声が響いてくる。
そして、それに応えるように、


「ヒェーーーイ!!!」


という中年男女の雄叫び。
ウトウトしていた息子も布団から飛び起きて、


「ドロボウ?ねえ、ドロボウ?」


と、目をキラキラさせて聞いてくるので、


「盗みに入るのにフォーとか叫ぶ泥棒はいないよ」


といって布団に連れ戻すのだが、
いちど火が付いた子供の好奇心は、たやすく消えない。


「様子のおかしい大人」は、子供の大好物である。


そのフィットネスジムは、
入口が全面ガラス張りで、中が丸見えだ。

常に人の視線を感じる空間作りにすることで、
「見られている」という性的緊張感を養分に、


「どんどんビューティーボディに近づきましょ!」


という魂胆らしい。


俺は、奥様方の美肌に貢献するつもりはないので、
ジムの前を通るときはいつも素通りしていたのだが、

あるとき好奇心に負けて、中をのぞいた事がある。

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そこではスポーティタイツの60近い男女が、


腕をふり上げ、ワン、ツー!

足をけり上げ、ワン、ツー!


最後はグリコのキャラクターよろしく、
みんなで天高くもろ手を上げて、


「イエェーーー!!」


と、ハイタッチ&ハグしていた。

その光景を見たとき、


「ぶつかり稽古かよ!」


と皮肉を言いたくなったが、
正直、ちょっとうらやましくもあった。


健康への執着。若さへの執念。


踊って、叫んで、カロリー消費して。

このままならない日常を何とかして、
祝祭空間に変えようとしているんだろう。


ココロは前後不覚のトランス状態を求め、

カラダはフラストレーションのはけ口を求め、

老いた男女がどっこい踊っている。


この「どっこい!」な感じ、
現代ではすっかり感じられなくなった「どっこい!」
俺は無性に「どっこい!」が恋しくなった。


「どっこい!」


「なにくそ!」


「もういっちょ!」


今でこそ思うことだが、

年をとってもどうか、
「枯淡の境地」なんて言わないでほしい。

その良さは十分わかるけども。

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生と死のあわいに滲む、渋ガキの色。

良いよね、ホント。


でも、侘び寂びの色彩を愛でる心ってのは、
死に対する望郷の念かもしれない。


深淵をのぞくような幽玄なグラデーションも、

作家性を脱したかに見えるおごそかな作風も、

出自をたどれば、みんな、


「自分だけは歴史の彼岸に到達したい」というエゴだ。


安易な解釈でからみ取ろうとする俗物眼を払いのけ、
はるか遠くの時代に自作の真価を問いかけるため、
人は記号性を拒んで、抽象にむかっていく。


「作家性を脱する」


ってのも、言葉にすれば響きはいいが、
「客観性」とかいう言葉と同じくらい、
ナンセンスな概念だよ。

あり得ないんだ、そんなもの。

俺は「普遍」を望んでいるわけじゃない!

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だって現にいま目の前で、

俺の倍ちかく生きているおじちゃん、おばちゃんが、

重力に逆らい、

時間にツバを吐き、

年齢にケンカを売り、

たるんだ肉を笑いとばし、

背中に「暗血永仁愚(アンチ・エイジング)」

と入れ墨いれて、どっこい踊っているんだから。


うるさくて、見苦しくて、メンドくさいけども、
これからこういう人たちはどんどんいなくなる。

それを思うと、どうで死ぬ身の一踊り、
いっそ骨になるまで脂肪を燃焼させ続けてほしい。


そんな事をぼんやり考えながら、俺は、
どっこいジムの前を立ち去った。


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昭和は、
「テクスチャーが語る時代」だったよ。


さびれたペンキのはがれ跡、

コンクリートのヒビ割れ、

あの子のムンムンと汗ばんだ肌、

鼻を拭きすぎて黒くなった、
アイツのトレーナーの袖。


これらうす汚れたテクスチャーは、
学校や街のいたるところに貼りついていて、
少年時代の俺に人間のおかしみを教えてくれたよ。


「なんかそこら中、マーキングだらけだな笑」


という風に。
生きている事を笑える時代だったよ。


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それがなんだ、
このツルツルピカピカコーティングの現代は。

ここにいると自分の不潔さばかりが浮き彫りになって、
マイナスイオンのエコクリーンな圧力が、
本気で殺しにかかってくるようだ。


いいかい、人間味を出すなよ?

まちがっても、体液とか漏らすなよ?

毛とかフェロモンとか原人のなごりを持ち込むなよ?

いつもキレイにご利用いただきありがとうございます。


そういって、抗菌シリコンのとじブタで、
全身をムンギュ〜と押さえつけられるようだ。


俺はまっ白なタジン鍋の中に閉じこめられて、
自分の体からムラムラとわき上がる、
「感情」「体臭」「ロマン主義」といった、
前時代的な蒸気に自家中毒を起こして、
どんどん腐敗しはじめる。


ああ、それが東京だ!!!!!

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わが家が半年前に購入したSHARPの空気清浄機、
KI-FX75(買ってしまったんだ、これがまた)。

女性のアナウンスで、
空気のよごれを教えてくれるのがウリだ。

たとえば部屋の離れた所でコッソリ、


「プウ」


とオナラをしても、すぐに、

「空気ノヨゴレ、見ツケマシタ。キレイニスルネ」

と、わざわざ大声で知らせてくれて、
ランプを真っ赤に点灯させたかと思うと、
ブオーーー!!と猛烈な勢いで空気を吸いはじめる。

買ってきた当初はそれがおもしろく、


「これじゃオナラしても隠せないねーー笑」


などと奥さんと二人で笑っていたのだが、

そのあまりに敏感なセンサーに、
だんだんと腹が立ってきたというか、

こっちが深夜ヘトヘトになって帰宅して、
部屋のドアを開けたとたん、


「空気ノヨゴレ、見ツケマシタ」


とか言われてさ。カチンときて、


「よごれてねーよ、バカ!」


とスイッチを叩っ切る事も、けっこうあった。


だからもう、
人間を疎外するような風潮をやめましょうよ。


自分の作品にもだんだんと、
そういう影響が出てきているようだ。

生理のおもむくまま東京で芸術活動をやると、
なぜかこうなるらしい。

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でも俺は、田舎移住するにはまだ早い。

田舎に行ったらば、
おいしい食べ物とうつくしい自然にかこまれて、
助け合い、はぐくみあいのアートになるだろう。

なるだろうってか、
嬉々として自ら飛び込んでいくだろう。


人間だいすきだから。


ああ、そうなんだ・・・

好きで好きでたまらない。

いつだって俺は、だれかを応援したい。


たぶん先週、
統合失調症の女の子に出くわした事が、
未だボディーにこたえているらしく、

なんかもう「枯淡の境地」とか、
言ってる場合じゃなくなってしまった。

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ほんと強烈だったから。


女の子の目とか、部屋とか、貼り紙とかさ。

あの空間にある全てが、とにかく全力疾走で。

ご家族もかなりパンチあったけど。

忘れられないんだよな。


そういや昨日の夜、
絶縁されたと思ってた金沢の友人から電話があり、

「三宅くんは一番の友達だと思ってる」

と伝えてくれて、嬉しかった。

最近いろんな友人に会うたび、
おなじような言葉を言ってもらえる。


俺はうれしい。


腐ってもまだまだ存在理由があるのなら、
これからも東京で自家中毒作品を作り続けよう。


おわり

by kan328328 | 2018-01-06 18:25 | アート | Comments(0)

美術作家・三宅感のブログです


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