もしもし聴こえますか?

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何日も、何日も、
心はずっとうわの空であった。

大学ではかれこれ一ヶ月以上、
zoomでオンライン授業をしている。

プライバシーの配慮なのか、
生徒はみんな顔をふせており、
ズラリならんだ黒画面に向かって、
俺はひたすら話しかける、話しかける。

「皆さん、質問はありますかー?」

画面にさらし続けている俺の顔面は、
時間と共に汗でテカってくる、
テカってくる。

「聞きたい事はー?疑問はー?」

笑顔は引きつり、言葉もカラ回りして、
自分が何をしゃべってんのか不明なまま、
ようやく3時間(時に5時間)が過ぎ去る。

授業が終わると同時に、
ぐったりベッドに横たわる俺。
そして毎回、

「あーこのまま目覚めなくていいや」

と、思う。

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オンライン講師に向いてないんだろか。

コロナが蔓延する以前のように、
直接一人一人と会って話すならまだしも、
ひたすら無表情な画面に語りかける言葉を、
俺はまだ知らない。この一方通行な感じも、
とてもコミュニケーションとは思えない。

とりあえず、死体になりきって少し眠る。

30分後、ガラケーのアラームが鳴ると、
俺は原付にまたがって利用者の家へ行き、
入浴介助をする。

額からしたたり落ちる滝の汗。

全身にのしかかる成人男性の重量。

超、密。ソーシャルディスタンスゼロ。

「これがリアリティーってやつだな・・」

と、思いながら、
石鹸でワッシャワッシャと洗う。

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〈仕事の終わりに焼酎を呑みつつ、誰に見せるでもない水彩画と向き合う労働者の図〉

介助中、
隣室のテレビから聞こえてくるのは、
「都内の感染者が増えた」というニュース。
とにかく暗澹とするようなご時世だけども、
その不満を誰かのせいにはしたくない。

環境のせいにも、上司のせいにも、
お金のせいにも、道具のせいにも、
時間のせいにも、学校のせいにも、
生い立ちのせいにもしない。

全ての外的要因は、

「自分で選び取ったんじゃー!!」

くらい、言い放ちたい。
そんな自立した人間でありたいと思う。
本当に色々とクソくらえである。

ああ、いっそ、
美術などとは縁のない労働者のアートが見たい。
無口なチンピラがしたためた日記が読みたい。
どこをどう切り取っても、
表現の必然性しか感じられないような作品に、
心底出会いたい。

令和の色川武大は、エリックホッファーは、
住宅顕信はどこにいるんだろうか。

でも、それを探し求めるくらいなら、
自分で制作しようと思う。これからも、
二児の育児をしつつ、労働に汗をかきつつ、
一人で作り続けるしかないんだよな。

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このブログの文体とそっくりなブログを、
LINEで教えてくれる人がいた。

俺は知ってたけど、別にいいやと思った。
むしろ誰かに影響を与えているのなら、
このブログを書き続ける意義もあるだろう。
そういう事、今までに何度もあったし。

また昨晩、
大学内でもかなり気合いの入ってる生徒から、
「今度グループ展をやりましょう!」と、
気合いの入ったLINEをもらった。

この子らいつも気合い入ってんなあと、
明るい気持ちになれた。なので、
「了解!」と返信して眠った。そして翌朝、
かなり気合いの入った寝坊をした。

by kan328328 | 2020-06-12 20:05 | アート

美術作家・三宅感のブログです


by kan miyake
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