邂逅
2020年 09月 01日
このブログには度々書いてるけど、俺には、
領家弘人(リョーケヒロト)くんという、
親友がいる。彼はkahier(カイエ)
というハードコアバンドの中心メンバーだ。
阿佐ヶ谷の純喫茶で偶然彼と出会い、
文学や芸術、映画や音楽の話で意気投合し、
かれこれ10年以上親交が続いている。
その間、ケンカ別れしたり何なりで、
何年も会わなくなったと思いきや、ふいに、
2014年に1stアルバム「white past」
を出し、そのCDを領家君はわざわざ、
俺の展示会場まで届けに来てくれた。
すげーなと思った。
登場の仕方が、
「童子こさえる代わりに書いたのだもや」
って原稿を届けにくる宮沢賢治みたいだ、
と思った。
実際、アルバムに入っている曲はどれも、
高純度な詩の結晶のようだった。
その後、またしても音信不通となり、
それは彼が新作に取り組むときは必ず、
尋常でない集中力を必要とするからだと、
ほどなく理解した。
俺は友達と連絡を取り合う習慣がなく、
彼は彼でSNSの類いを一切やらないので、
その後の動向をおたがい知らぬまま、俺は、
とりあえず手元にある彼の1stアルバムを、
ほぼ毎日のように聴き続けた。
出勤時や、制作中や、移動する車内で、
何年も、何年も、何年も。
あまりに長いこと聴きすぎたせいで、
恐らく演奏している本人よりも、
曲のフレーズや展開を記憶しており、
そのせいで、おなじみの曲が流れるたび、
「そいで次は?次はどんなアルバムなん?」
と、
頭の中で領家君を詰問した。そして、
それに応答する声がないのは寂しかった。
そんな歳月が何年も過ぎ、
つい2日前、突然領家くんから、
「kahierの2ndアルバムが完成した」
と連絡がきた時は思わず、
「おおーー!!」と声が出た。
6年ぶりのアルバムらしい。
ピカピカの一年生が、
オラつき始めるくらいの年数だな。
とにかく、
領家君がまたしてもやってくれた。
俺は、今まで待ち続けた数年分の時間が、
キュルルー!と一気に巻き戻るようで、
仕事中にもかかわらず、胸が痛み出した。
心から嬉しいのに、どこか苦しいような、
胸のつっかえがずーっと消えず、
「一体これは何だろう」と考えた末、
「これはたぶん、
領家君が1stアルバムを完成させて以来、
6年間ずっと抱え続けたであろうジレンマが、
俺にこうして乗り移ったんだな」
と思うことにした。
思えば、kahierにはすでに、
完成度の高い1stアルバムがあったものの、
完璧主義の領家君はその出来に不満らしく、
よく「早く次のアルバムを完成させたい」
と漏らしていた。
これは俺も大いに身に覚えがある事だけど、
「いまだ自分の代表作と呼べる作品が、
手元にない苦しみ」というのは、本当に、
本当に、生き地獄でしかない。
だから領家君もまた、過去作はふり返らず、
ひたすら新曲作りにだけ没頭したのだろう。
あまりに真っ当なパンクの姿だ。
現在進行系で取り組んでいる作品が、
すばらしい物になるという確信があり、
それに期待すればするほど、意に反して、
「何らかのアクシデントで、
この作品が消えてしまうんじゃないか。
もしくは完成間近で、
自分が事故にあって死ぬんじゃないか。
そもそも、
これは完成に向かっているんだろうか。
実はルームランナーの上を歩くみたいに、
同じ場所で足踏みしてるだけなんじゃないか」
という、何の根拠もない焦りと疑念が、
頭をよぎることも多々あったと思う。
そうなってしまうと、
すっかり見なれた毎朝の電車風景も、
深い理解者など望めない職場の人間関係も、
命を切り売りするような長時間労働の拘束も、
全部が全部、作品の完成をさまたげてくる、
ジレンマへと様変わりしてしまうだろうな。
だからこのジレンマと、
どう折り合いをつけるかが肝心で。
俺は今までどうやり過ごしてきたっけ…
と自分自身を振り返ってみると、
「くり返す日常もリアリズム」と言い聞かせ、
日々をまるごと愛そうと心がけた事もあった。
(5分と続かなかった)
「くり返す日常など一瞬たりともない」
と言い聞かせ、日々小さな変化を見出そうと、
心がけた事もあった。
(これも5分と続かなかった)
「美は乱調にあり」と言い聞かせ、
缶チューハイ飲んで大声で歌いながら、
暗い夜道を一人で帰った事もあった。
(翌朝の脱力感ハンパなくてやめた)
そうやって、
あーだこーだと手を替え品を替え、
日々のルーティンに抗い続けてきたものの、
そのどれもがことごとく失敗に終わった。
とにかく難しいんだ、
生活と労働と制作のバランスってのは。
ぜんぜん攻略できやしない。
肉体は雑巾のようにズタボロだし、
心はティッシュのように破れやすいよ。
そんで、
ひとたび自己不信におちいってしまうと、
他人の挫折が何よりの大好物である、
クリエイター崩れ達がどこからか現れるし。
「ウチらいつまでもこんな活動してるわけ、
行かないじゃないすか〜?
(同意を求める口調で)ホラ社会人として、
今後の生活や将来の事もありますし〜」と、
まだ何も始めてもいないような奴が、
自分に情熱が無かっただけの事を、
堂々と社会のせいにしつつ、ドロドローッ!
としなだれかかってくるのだ。
こういう挫折系ポケモンが、
恐らく国内だけで500万匹は生息しており、
道で出会ったなら決して目を合わさぬよう、
細心の注意が必要だ。
特に領家君が住んでる中央線界隈には、
昔も今も、仲間内で群れてイキがる事でしか、
ロックを体現できないようなバンドマンが、
ウジャウジャいるからな。
オリジナル曲もろくにないまま、
(その百倍くらい言い訳のストックはある)
アルバムはいつだって「出す出す詐欺」で、
昔あのライブハウスで暴れて出禁になったと、
居酒屋の二階で誇らしげに武勇伝を語っては、
ホコリかぶった過去の栄光をひけらかし、
若手から承認の甘い蜜をすすり続けるのだ。
そして口を開けば、過去、過去、過去!!
そういう、
クソにアンプつないだような奴に限って、
「お前の表現は〜」となれなれしく、
上から目線で批評を始めるのでタチが悪い。
それに対し、
「いや、お前らとは違うから」
と言い返そうにも、
その違いを証明する作品が手元にないなら、
ただただ歯を食いしばるしかない。
自分からすればあまりに自明な、
全くもって疑う余地がないくらいの差
(音楽に対する本気度にとどまらず、
感性や表現力その他すべての点における差)
を、相手との間にハッキリと感じても、
その差を示せるほど納得いくような作品が、
まだ完成していなかった日々というのは、
それは本当に、本当に辛かっただろうな。
だから領家くん、本当におめでとう!!!
ようやく「これが僕の代表作です」と、
堂々と人に渡せる作品が完成したんだね。
本当、自分のこと以上に嬉しいです。
何でも、
今日の夕方にはCDが届くというのに、
(俺が一番初めのリスナーらしい!)
俺はいてもたってもいられずフライングで、
こんな積年の悔しさまで書き殴ってしまった。
そのくらい痛快な知らせだったし、俺も、
こうしちゃいられんと身が引き締まった。
最後までグチャグチャになってしまったけど、
とにかく、ありがとう。
by kan328328
| 2020-09-01 11:42
| 音楽