邂逅

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このブログには度々書いてるけど、俺には、
領家弘人(リョーケヒロト)くんという、
親友がいる。彼はkahier(カイエ)
というハードコアバンドの中心メンバーだ。

阿佐ヶ谷の純喫茶で偶然彼と出会い、
文学や芸術、映画や音楽の話で意気投合し、
かれこれ10年以上親交が続いている。

その間、ケンカ別れしたり何なりで、
何年も会わなくなったと思いきや、ふいに、
2014年に1stアルバム「white past」
を出し、そのCDを領家君はわざわざ、
俺の展示会場まで届けに来てくれた。
すげーなと思った。

登場の仕方が、
「童子こさえる代わりに書いたのだもや」
って原稿を届けにくる宮沢賢治みたいだ、
と思った。
実際、アルバムに入っている曲はどれも、
高純度な詩の結晶のようだった。

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その後、またしても音信不通となり、
それは彼が新作に取り組むときは必ず、
尋常でない集中力を必要とするからだと、
ほどなく理解した。

俺は友達と連絡を取り合う習慣がなく、
彼は彼でSNSの類いを一切やらないので、
その後の動向をおたがい知らぬまま、俺は、
とりあえず手元にある彼の1stアルバムを、
ほぼ毎日のように聴き続けた。

出勤時や、制作中や、移動する車内で、
何年も、何年も、何年も。

あまりに長いこと聴きすぎたせいで、
恐らく演奏している本人よりも、
曲のフレーズや展開を記憶しており、
そのせいで、おなじみの曲が流れるたび、

「そいで次は?次はどんなアルバムなん?」

と、
頭の中で領家君を詰問した。そして、
それに応答する声がないのは寂しかった。

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そんな歳月が何年も過ぎ、
つい2日前、突然領家くんから、

「kahierの2ndアルバムが完成した」

と連絡がきた時は思わず、
「おおーー!!」と声が出た。

6年ぶりのアルバムらしい。
ピカピカの一年生が、
オラつき始めるくらいの年数だな。

とにかく、
領家君がまたしてもやってくれた。
俺は、今まで待ち続けた数年分の時間が、
キュルルー!と一気に巻き戻るようで、
仕事中にもかかわらず、胸が痛み出した。

心から嬉しいのに、どこか苦しいような、
胸のつっかえがずーっと消えず、
「一体これは何だろう」と考えた末、

「これはたぶん、
領家君が1stアルバムを完成させて以来、
6年間ずっと抱え続けたであろうジレンマが、
俺にこうして乗り移ったんだな」

と思うことにした。

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思えば、kahierにはすでに、
完成度の高い1stアルバムがあったものの、
完璧主義の領家君はその出来に不満らしく、
よく「早く次のアルバムを完成させたい」
と漏らしていた。

これは俺も大いに身に覚えがある事だけど、
「いまだ自分の代表作と呼べる作品が、
手元にない苦しみ」というのは、本当に、
本当に、生き地獄でしかない。

だから領家君もまた、過去作はふり返らず、
ひたすら新曲作りにだけ没頭したのだろう。
あまりに真っ当なパンクの姿だ。

現在進行系で取り組んでいる作品が、
すばらしい物になるという確信があり、
それに期待すればするほど、意に反して、

「何らかのアクシデントで、
この作品が消えてしまうんじゃないか。

もしくは完成間近で、
自分が事故にあって死ぬんじゃないか。

そもそも、
これは完成に向かっているんだろうか。

実はルームランナーの上を歩くみたいに、
同じ場所で足踏みしてるだけなんじゃないか」

という、何の根拠もない焦りと疑念が、
頭をよぎることも多々あったと思う。

そうなってしまうと、
すっかり見なれた毎朝の電車風景も、
深い理解者など望めない職場の人間関係も、
命を切り売りするような長時間労働の拘束も、
全部が全部、作品の完成をさまたげてくる、
ジレンマへと様変わりしてしまうだろうな。

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だからこのジレンマと、
どう折り合いをつけるかが肝心で。
俺は今までどうやり過ごしてきたっけ…
と自分自身を振り返ってみると、

「くり返す日常もリアリズム」と言い聞かせ、
日々をまるごと愛そうと心がけた事もあった。
(5分と続かなかった)

「くり返す日常など一瞬たりともない」
と言い聞かせ、日々小さな変化を見出そうと、
心がけた事もあった。
(これも5分と続かなかった)

「美は乱調にあり」と言い聞かせ、
缶チューハイ飲んで大声で歌いながら、
暗い夜道を一人で帰った事もあった。
(翌朝の脱力感ハンパなくてやめた)

そうやって、
あーだこーだと手を替え品を替え、
日々のルーティンに抗い続けてきたものの、
そのどれもがことごとく失敗に終わった。

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とにかく難しいんだ、
生活と労働と制作のバランスってのは。
ぜんぜん攻略できやしない。

肉体は雑巾のようにズタボロだし、
心はティッシュのように破れやすいよ。
そんで、
ひとたび自己不信におちいってしまうと、
他人の挫折が何よりの大好物である、
クリエイター崩れ達がどこからか現れるし。

「ウチらいつまでもこんな活動してるわけ、
行かないじゃないすか〜?
(同意を求める口調で)ホラ社会人として、
今後の生活や将来の事もありますし〜」と、

まだ何も始めてもいないような奴が、
自分に情熱が無かっただけの事を、
堂々と社会のせいにしつつ、ドロドローッ!
としなだれかかってくるのだ。

こういう挫折系ポケモンが、
恐らく国内だけで500万匹は生息しており、
道で出会ったなら決して目を合わさぬよう、
細心の注意が必要だ。

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特に領家君が住んでる中央線界隈には、
昔も今も、仲間内で群れてイキがる事でしか、
ロックを体現できないようなバンドマンが、
ウジャウジャいるからな。

オリジナル曲もろくにないまま、
(その百倍くらい言い訳のストックはある)
アルバムはいつだって「出す出す詐欺」で、
昔あのライブハウスで暴れて出禁になったと、
居酒屋の二階で誇らしげに武勇伝を語っては、
ホコリかぶった過去の栄光をひけらかし、
若手から承認の甘い蜜をすすり続けるのだ。

そして口を開けば、過去、過去、過去!!

そういう、
クソにアンプつないだような奴に限って、
「お前の表現は〜」となれなれしく、
上から目線で批評を始めるのでタチが悪い。

それに対し、

「いや、お前らとは違うから」

と言い返そうにも、
その違いを証明する作品が手元にないなら、
ただただ歯を食いしばるしかない。

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自分からすればあまりに自明な、
全くもって疑う余地がないくらいの差
(音楽に対する本気度にとどまらず、
感性や表現力その他すべての点における差)
を、相手との間にハッキリと感じても、

その差を示せるほど納得いくような作品が、
まだ完成していなかった日々というのは、
それは本当に、本当に辛かっただろうな。

だから領家くん、本当におめでとう!!!

ようやく「これが僕の代表作です」と、
堂々と人に渡せる作品が完成したんだね。
本当、自分のこと以上に嬉しいです。

何でも、
今日の夕方にはCDが届くというのに、
(俺が一番初めのリスナーらしい!)
俺はいてもたってもいられずフライングで、
こんな積年の悔しさまで書き殴ってしまった。

そのくらい痛快な知らせだったし、俺も、
こうしちゃいられんと身が引き締まった。
最後までグチャグチャになってしまったけど、
とにかく、ありがとう。

by kan328328 | 2020-09-01 11:42 | 音楽

美術作家・三宅感のブログです


by kan miyake
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