こちらあみ子・こちらスミコ

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多摩美の彫刻科1年生だった20歳の頃、
俺は絵本創作研究会というサークルに所属しており、
自作の絵本を発表しまくっていた。

その3作目に「こちらスミコ」という絵本がある。
制作したのは2002年。

「主人公は知恵遅れの女子小学生・スミコ。
彼女の家庭はとうに崩壊しており、
母はスミコを見捨て、新しい男の元へと走った。
スミコは独りでスパイごっこをしながら、時おり、
腕時計型トランシーバーに話しかけ(るフリをして)
この世には存在しない者と交信する」

という内容。

俺が描いた絵本は全部で十数冊程度だったけど、
都心の老舗ギャラリー、多摩美の学内展、
オープンキャンパスなどで毎年何度も展示をし、
自分で言うのも何だけど、かなり好評を博した。
感想ノートを開けば、そこには学内・外を問わず、
読んでくれた人からの熱い長文が寄せられていた。

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そんな過去の栄光も過ぎ去って、早20年。
こないだ何げなく本屋に立ち寄ったら、
「こちらあみ子」という本がズラリと並んでいた。
2010年に発表されるや否や三島由紀夫賞を受賞し、
今年の夏には映画化までされるという。

「へえ、俺も昔そんなタイトルの絵本を描いたな」

と思い、
アマゾンでその本のレビューを見てみると、

「知恵遅れの女子小学生・あみ子の言動が、
少しずつ家庭崩壊を招いていくストーリー。
あみ子はこの世にはいない誰かと交信するため、
壊れたトランシーバーに話しかける」

といった内容が書かれてあった。

「ん?」

となった俺はKindleで「こちらあみ子」
をダウンロードして読んでみたところ、
自分が描いた「こちらスミコ」との類似点が、
いくつか見つかった。

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◯主人公の名前が似ている点(スミコ・あみ子)

◯どちらも知恵遅れの女子小学生という設定

◯主人公の背景にある家庭崩壊

◯どちらも「スパイごっこ」が好きな点

◯恋する少年による熱視線の描写

◯壊れたトランシーバーという重要アイテム。
(または腕時計型トランシーバーのふり)

○この世に存在しない者と交信する描写

◯「こちらあみ子」「こちらスミコ」という、
一文字違いのタイトル

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うーむ。

ここまで要所要所が似ていると、
「もしやパクられたのでは・・・?」
という疑念が浮かんでくる。
で、こういうモヤモヤを圧縮させ続けた結果、
人は京アニ放火事件の犯人みたくなるのか、
と思うと、ゾッとした。

自分もまたかなり自意識過剰な面があるため、
これもただの気にしすぎなのかもしれない。
とりあえず客観的な意見が聞きたいと思い、
学生当時同じ絵本研究会に所属していた、
美術作家の関口光太郎くんに電話をかけた。
すると彼は、

「縁もゆかりもない作家が同時期に、
同じインスピレーションを得ることがあるよ」

と話してくれた。

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それ、なんか聞いたことある。

アカシックレコードだっけか・・・

あらゆる人類の記憶を保有する世界概念があって、
誰もがそこにアクセスできる、みたいな話。

同時期というには「こちらスミコ」の方が、
8年も早く制作されているのだけど、まあでも、
大阪出身だという「こちらあみ子」の著者が、
2002〜2006年の期間に上京してきて、
どこかの会場で俺の絵本を読んだ、
ってことは、あんまなさそう。
だからこれは多分、偶然の産物なのだろう。

であれば俺はむしろ、
太宰治賞と三島由紀夫賞をW受賞した作家と、
かなり類似したインスピレーションを持っている、
ってことでムリやり納得することにした。

「誇りに思おう、そんで忘れてしまおう」と。

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ただ、一つだけ心残りがある。
それは、俺が描いた「こちらスミコ」の方は、
今後どこにも展示する事はできないだろうな、
ということだ。

仮にもし、
どこかの会場でこの絵本を展示をしたならば、
すぐさま来場者から、

「これってもしや、あの小説の…パクリすか?」

と、訝しがられるに決まっているし、ヘタすると、
「映画化もされた人気小説をパクる元・多摩美生」
として、SNSで炎上するかもしれない。

もちろん、
2002年当時に「こちらスミコ」を読んでくれた、
大勢の友人・教授の署名と日付入りの感想ノートは、
今も大切に保管してある。なので本来であれば、
俺が躊躇することなど何もないのだ。

けども・・・

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今後、
「こちらあみ子」が全国的に認知されていく中、
「こちらスミコ」をひっそりと展示したところで、
その物語・表現力・密度において比べるまでもなく、
スミコの方が色褪せてしまうに決まっている。

こういう不思議な逆転現象に見舞われたとき、
俺は自分の作家としての無力さをつくづく痛感し、
同時に、胸に手を当ててよくよく問うてみたなら、
「因果応報」という言葉も浮かび上がってくる。

そう、因果応報なのだ。

そもそも「作品が似てる」とか「似てない」とか、
そんなこと言える立場じゃない、俺は。

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思えば大学1年のころ、
俺が描いた絵本の1作目と2作目は、明らかに、
あこがれの絵本作家である長谷川集平さんの作風に、
タッチも文章もモロに影響を受けていた。
結局その二冊は封印するようになったけども。

めぐりめぐって、
その悪果を今こうして収穫しているのだとすれば、
さしずめスミコは、作家の罪を一身に背負った、
贖罪の山羊といえるかもしれない…なんて。

ごめん、スミコ。

君はこれからも日の目を見ることなく、
押し入れの中で静かに眠り続けることだろう。
君の方が8年先に産まれたこと、これは事実だ。
しかしいかんせん、相手が良くなかった。
くやしいことに「こちらあみ子」は、
まごうことなき名作なのだ。

であれば、
我々もまた一から出直そうじゃないか。

いっそ小説を書いてみようか。

そんで芥川賞、いや、ノーベル文学賞を狙う!

ってのも悪くないかも。

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by kan328328 | 2021-06-06 10:12 | アート

美術作家・三宅感のブログです


by kan miyake
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