あなたが私に溶けていたこと

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11月、俺はアートプロジェクト高崎2021に参加し、
三宅感パフォーマンス「顔面バスツアー」を行なった。
一般の参加者を募って顔のモデルになってもらい、
目の前で顔面彫刻を制作。移動式押し車の上に乗せ、
市街を練り歩きつつ、街中のアートを解説して周った。

それと日程が重なる形で、12月には前橋の芸術祭、
River to River〜川のほとりのアートフェス〜に参加。
そこで俺は「失われた顔面を求めて」と題し、
展示会場内にまっ白い小屋を建て、会期中は毎日、
来場者の顔面を彫刻し続ける公開制作を行なった。
最終日には計31体の巨大顔面が入り口に並んだ。

アートフェスに参加することも、
屋外に一日で小屋を建てるという試みも、
初対面の人の顔をライブで彫刻するという試みも、
街中を顔面バスを押しながら歩くという試みも、
他人が作ったアート作品を解説するという試みも、
市をまたいでダブル展示をするという試みも、

とにかくすべてが初めての試みだったし、
毎日毎日不安に押しつぶされそうだった。でも、
フタを開けてみればどちらも盛況で、新聞各社、
ラジオやYahoo!ニュースまで取り上げてくれた。

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顔面のモデルになってくれた参加者の層は幅広く、
男女問わず上は70代、下は小学校低学年まで。
2ヶ月間にわたり、俺は30人の顔面と向き合い、
ひたすら対話し、彫刻し続けた。それは、
コロナ禍で長らく見えなかった他者の表情を、
一気に取り戻そうという、半ば意地でもあった。

高崎も前橋も都心から遠いこともあり、
SNS以外ではほとんど告知しなかったんだけど、
両展示とも東京や埼玉から友達が見に来てくれた。
関口くんも吉山さんも北村さんも加藤さんも、
はるばる遠方から来てくれてありがとう。

そんな彼らへせめてものオ・モ・テ・ナ・シとして、
毎回俺の実家に泊まってもらい夜中まで語り合った。
互いの表現について、持病について、労働について。
そして「辛さについて人と語り合える幸せ」を、
何度も噛みしめた。

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とにかく寝ても覚めても対話、対話、対話だった。

たとえば1歳9ヶ月の娘と遊ぶ時でさえ、俺は、
言語を忘れ、ただジッと見つめ合い、
「ウゥタン、パパジィ〜、ナイナイネェ〜」
と、喃語だけでおたがいの気持ちを伝え合った。

また社会活動家の方と対話しているとき、俺は、
自己評価が低く受動的になりがちな若者を生む、
この国の教育システムについて共に悩んだ。

また20代大学生の恋愛相談を受けている時は、
俺自身にナゾの女学生が全身全霊で憑依して、
「マジ鈍感なア・イ・ツにウチの想い届け〜」
って共にトキめいた。

相手の言葉にまっさらに胸をひらいていくと、
ふいに自他の境が溶けあう瞬間がやってくる。
自分の思いなのか、相手の思いなのかわからず、
てかそんなこだわりすらどうでも良くなって、
初めバラバラだったお互いの価値観やセンスが、
煮込んだシチューみたく見事に溶け合う。

そんな瞬間が顔面彫刻をしているときにも、
幾度となく訪れた。
その心持ちになると、ただ何もかもがありがたく、
「作品」などと回りくどい物はいっそ挟まずに、
共に肩抱き合い泣き笑いしたいだけなのだった。

だから、訥々と自己開示してくれる相手を前に、
「俺の意見〜」など、一体何だというのだろう。
そんなものをゴリ押ししたって、
相手との交信がプツッと切断されるだけで。
君は間違ってるというテイで他者を変えたがる、
アドバイスとオゴリに何か違いがあるのだろうか。

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日々こういう心境にあって、
歌人・岡本かの子の「女人ぼさつ」という詩が、
いよいよもって自分の真に迫ってくるようだ。

「薔薇見れば薔薇のゑまひ
牡丹に逢はゞ牡丹の威
あやめの色のやさしきに優しく
女人われこそ観世音ぼさつ。

柳絮直ければ即ち直く
松厳くしければわれも厳くし
杉いさぎよきに、はた、いさぎよく
女人われこそ観世音ぼさつ。

そよ風にそよとし吹かれ
時に、はた、こゝろ浮雲
足裏の土踏むちから
女人われこそ観世音ぼさつ。

人のかなしみ時には担ひ
よろこびを人に送りて
みづからをむなしくはする
女人われこそ観世音ぼさつ。

ぼさつ、ぼさつ、観世音
千変万化
円融無碍もて世を救ふ
女人われこそ実に観世音。」

こんなにもいじらしく胸に迫る詩、
あなたが私に溶けていることを綴った詩、
俺は他に知らない。

だから自分もまた、
「こう見られている俺」という何ら確証のない、
強固なセルフイメージから何度も何度も脱皮し、
グネグネと軟体動物のように寄るべない心で、
外界にモロに影響を受けては動揺しつつ、
美しい方へ美しい方へ(時にキモイ方へ!)と、
変化し続けていきたいのだった。

by kan328328 | 2021-12-24 23:17 | アート

美術作家・三宅感のブログです


by kan miyake
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