カビンちゃん
2022年 10月 28日
毎週月曜になるとどこか生まれ変わったような心持ちで「今週こそは精力的に制作と仕事と家事をこなすぞ!」ってなる。でもそのモチベーションが土日まで届かず、死んだように週末を眠りつぶしてしまうこともある。そんな挫折した翌日の朝は、ほとんどワラにもすがるような思いで「どうか!どうか今日のやる気の射程が日曜まで伸びますように!」と強く心で祈ったりする。それも同じコンビニに入った時、同じタイミングで。こうして祈りすらルーティンに組み込まれてしまった日常は、何て切実だろうと思う。
月曜にはまっさらだった自分の心も、火曜、水曜、木曜と日を重ねるごとに、さまざまな人たちの思念と、それに対する自分のリアクションなどでごちゃ混ぜになり、金曜の夜にはドドメ色に汚れちまった悲しみができあがる。こうなるともはや重力に抗えず、仕事帰りの電車内で席が空こうものなら、イノシシ年の俺は血まなこになって座席に飛びかかる害獣と化す。そしてムリやり座席を奪い取ったあとはグッとまぶたを閉じて「目的地まで誰にもゆずりません」アピールに終始する老害と化す。目はぜったいに開けない。開けると、向かいの窓ガラスに政治家みたいな仏頂ヅラをした自分の顔が映っているから。
でも、このくらいの疲労がちょうどいいのかもしれない、とも思う。こうして一週間分の苦渋をダブダブ吸い込んで切り干し大根みたくなった週末のメンタリティが、一人ブログを綴るのには、ほどよい塩梅なんじゃないか。良いことばかり続くとどうしてもフワフワと調子づいた文体になるし、落ちすぎている時はネガティブ過剰な文体になって読めたもんじゃない。適度に疲れているくらいが、自分の内心とピタリ一致した文体が生まれてくるような気がしている。自分にとってはブログも作品の一部だから。
来月、非常勤の先生や学生有志で集まって、焼き畑の炎を利用して自作の陶器を焼く「野焼き会」が行われることになり、俺は今から楽しみでしょうがない(役所には申請済みとのこと)。すでに10名近くが参加予定で、こないだは皆で当日の持ち物や流れなどを話しあった。自前の粘土を持っていなかった俺は、心やさしき学生さんから信楽焼用の陶土を分けてもらい、帰りにダイソーへ行って粘土の表面に模様をつけるためのロープやら粘土ベラやら買いこんで帰宅した。
さっそく自分の部屋で、粘土板に粘土を乗せてグニグニとこねてみる。土粘土の手ざわりがなつかしく、早朝からうすら寒い小部屋の片隅で粘土を練っていた、美術予備校時代の記憶がよみがえった。高校一年の夏に中退し、お先まっ暗な将来におびえていたあの頃の不安と、キメ細かくひんやりとした粘土の質感は、もはや脳内で切り離せないくらいに一体化している。
とはいえ、ひさしぶりの粘土はやっぱり楽しく「手始めに陶器のコーヒーカップを作ろうか」「蚊とり線香やお香立てなんかもいいな」「水琴窟を作って寝室に置いてみたいな」「明太子や塩辛をズラリと並べられるおつまみ皿も作りたいな」と大いに迷ったあげく、「食事と排泄が同時にできる器が作れないだろうか…」などと訳わからんくなってきたので、思いきって陶器の実用性を捨てて「土偶を作ろう」と思った。それも、粘土修行のために己の個性を捨てて、縄文時代のオリジナルに忠実な土偶を作ろう、と。
しかしいざ作りはじめてみると、作業はかなり難航した。火の通りをよくするために、土偶の中身は空洞にする必要がある。ドーナツ状にした粘土を下から積み上げていく方法で、両足を立てる所まではうまくいくのだけど、太もも、腰、胴体と上にあがるにつれ、粘土による自重でペチャン!とつぶれてしまう。そのたびに一から作り直してはつぶれ、作り直してはつぶれ、やがて「…土偶とかムリなんじゃね?」という自己不信を拭えなくなってきた。
本来ならそこで、さまざまな創意工夫を重ねることでテクニックが向上するのだろうけど「どんなにがんばってもオリジナル土偶の良さには勝てないし、いっそ好き勝手作ったほうが楽しいだろうよ」という誘惑に屈し、土偶の腰まで作った段階で、急きょ「オレさま流土偶」へ方向転換。あとは手グセ丸出しでグチャグチャ作っていたら、だんだん昭和のウルトラ怪獣みたいになってしまった。
はからずも近接してしまった「少年のまっすぐな心を具現化したような怪獣造形」。そこから何とか逃れようとして「もっと解放的なフォルムにしろ!」「もっとセクシーにねじれ!」などと自分にムリな注文を出しつづけた結果、粘土をすべて使い切ってしまい、強制終了。俺の目の前には、何とも気まずい、ナゾの造形物だけが残った。
仕事から帰ってきた奥さんに「上に穴が空いてるし、花瓶にしたらよさそうだね。玄関には置かないでね」と助言をもらい、俺はこれを「花瓶だ」と思うことにした。何やら過敏そうな形をした花瓶だから「カビンちゃん」と命名。堕ちるところまで堕ちきった感はあるけど、今から焼き上がりが楽しみです。
by kan328328
| 2022-10-28 22:32
| アート